地獄の2カ月 その8

仕事シーズン2・上

地獄の2カ月 その7(前回の記事)

 さて、ASD(自閉スペクトラム症)疑いのある町田の経歴を聞かされていなかったワイは(正しくは社長自身がそこのところの話を本人に確認していないためにこうなった)経歴を聞き出すべく事務所で町田と向き合って座っていた。

多分、弊社では無理です・・・

 「町田さんの事色々聞かせてください」とワイが言うと、今まで大人しかった印象の町田が急に饒舌に喋り始めた。人に聞かれるのは苦手だけど、自分から喋るのは得意、と言ったところか。

町田「まず、ワタシは学校を出てから京都の親戚の染物屋に修業に入ったんですがね、年齢30を前に返されてこちらへ戻ってまいりました」

・・・あまり指摘したくはないが、継がせる予定が芽が出なくて向こうの親戚も諦めたのだろう。そして町田はこちらが聞きたかった押し出し成形の話をし始めたのだ。

町田「そんでその後ですね、あの~押し出し成形って知っちょりますか?(原文ママ)」
ワイ「詳しくは知りませんけど、どんなものかは大体分かります」
町田「んでね、ワタシ、それやってましてね」
ワイ「・・・ほほぅ(かなり怪しんでる)」
町田「押し出し成形の機械で製品が出来上がってきます。そのですね、出来上がってきた製品をですね、並べる仕事をしちょりました!(どや顔&原文ママ)」
ワイ「・・・」


更に町田は話を続ける。

町田「更に、その後違う会社でですね、※旋盤って知っちょりますか?(原文ママ)」
ワイ「知ってますよ」
※旋盤とは、金属を加工する機械の事。加工したい金属素材を機械にはめて回転させ、刃物で削って形を出す。関数の知識などが必要とされ、頭良くないと無理。

町田「ワタシね、それをやってましてですね」
ワイ「ほほぅ・・・(疑いしかない)」
町田「その機械に金属をはめる作業しておりまして、社員の人が30分置きにワタシのところに見にくるんですけどね、それをやっちょりました!(どや顔&原文ママ)」
ワイ「・・・」


 ・・・これはまいった。押し出し成形に関しては「出てきたものを並べる仕事をしていただけ」で、旋盤の方は「金属を機械にはめて、自動で仕上がったものを取り出すだけの仕事をしてただけ」ということになる。旋盤の方は30分置きに社員が検査に来ているようなので、検査の仕事もしていなかったという事だ。
 普通押し出し成形でも旋盤でも、機械のパネル部分で数字をいじって(一種のプログラミング)条件を出し、製品が仕上がるまでの一通りをやって初めて「やってた」と言えるものである。話を聞く限りでは、町田は仕上がってしまった製品の簡単な後処理、もしくは前段階の簡単な準備をしていただけ。だが町田的には「その仕事に関わった=自分がやった」と変換されてしまい、今回のような事態になったのだと思われる。
 町田の話を聞く限り、旋盤やってる町田を30分おきに監視する社員がいたり、押し出し成形機がある時点で2社ともそこそこデカい会社だというのが分かる。デカい会社だからこそ「並べるだけ」「入れるだけ」「取るだけ」という仕事が存在するわけで、弊社のように常に人手不足で更に零細、1人で何でもやらなければならない状態の所に「並べるだけ」とか「入れるだけ」の仕事は存在しないのだ。存在するとすれば「何か作業をやった後に並べる」「金具を入れた直後に他の作業をやる」というものだけである。頭を抱えるワイに町田は更に話を続けた。

町田「そんでですね、2つとも派遣で入った会社なんですけど、もう紹介できる仕事がないって言われて、しばらくは派遣会社の送り迎えのバスを運転しちょりました!」
ワイ「・・・・」
町田「だからここでガンバリマス」

 ワイはどう答えたら良いのか分からず小さい声で「ヨロシクオネガイシマス・・・」と言うしかなかった。これはなんというか、完全にミスマッチ以外の何物でもない。ゲートカットも出来ず、彼にやってもらえることと言ったら「掃除」くらいしか思いつかないが、多分その掃除も事細かに指示をしなければ何をやったら良いか分からない状態になると思う。


・・・・明日だ、明日Xが社長に町田の事で話があると電話するはずだ。しかし、これはどう伝えれば良いんだ?訳のわからないまま日は暮れていくのであった。次回へつづく。

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