製造担当のXはその器が無いと思われるにも関わらず、工場長となった。今までの記事からも分かるように、社長は「X以外はどうでもよい、他は替えが利く」と思っている節があるようで、口には出さなくとも行動でバレまくりである。
他に選択肢がない故の悲劇
Xのせいで嫌な思いをしなかった人は、社長とその嫁を除いてはウチの会社にいないのではないだろうか。彼は日常茶飯事のように他人に不快な思いをさせていた。
その理由には、大人しそうな性格が絡んでいる。つまりXは、大人しいが故に他人にモノを言う事が出来ないのだ。例えば相手が間違った事をしていた場合、「これはこうしてほしい」と口頭で言えば、相手も気づくし自分もすっきりする。
ところがこれが出来ない→イライラが募る→相手が憎い→嫌がらせや無視をするといった具合である。工場長を名乗る男がこんな事やってんだから、情けない。しかし、社長はそのことを知っていながらも「X君は大事だから」と、これをずっと放置し続ける。
今までXの下で働いてきた男性は何人かいたが、社長が、フィルターの役目を果たしていない面接で採用した奴にまともなのがいるわけもなく、それはXが社長公認で嫌がらせをして追い出してしまった。1人、仕事出来そうなのが入ってきたこともあったが「女と仲良くしている」という理由で結局彼の事も追い出してしまった。
Xの嫌がらせはワンパターンである。ある日いきなり挨拶を無視する、仕事を教えなくなる、相手の質問を無視する、というのがお決まりのパターンだ。しかも、相手が入社してから嫌がらせまでのスパンが非常に短い。「未経験」で入れているのが大多数なのだから、文句を言うべきは採用された人間ではなく採用した側(つまり社長)なのだが。
しかし、Xは社長には一切文句を言わず、はいはいとなんでも言う事を聞いていた。この姿を見て私は気が付いた。・・・こいつ、自分より確実に弱い立場の人間だけに嫌がらせしてんな、と。本来ならば社長に意見しなければならないような事案も、それが出来ないばっかりに弱い立場の人間にしわ寄せが来ていたのである。
こんなXにも家庭があるんだから信じられない。もちろん子供もいる。一体Xの嫁は、何が良くてこんな奴と結婚したのかと疑問に思ったが、恐らく嫁の尻に敷かれていて逆らえないのだろうと推測した。逆に言えば、家庭で嫁に言えないうっぷんを会社で晴らしている可能性もあるわけだ。
Xを観察して、本当は臆病で小心者だと私は悟った。そして、これはいざという時の武器になるとも思った。本当ならばこの武器は、使わないでいられればそれに越したことはない。だが、私の思いとは裏腹に、この武器を使わなければならない時がやがて訪れる事をこの時の私はまだ知らなかったのである・・・。

