さて、後藤さんが弊社に来てから1週間が経った。一応、彼には会社の仕事の流れを一通り覚えてもらうという感じで、工場長のXが仕事をこなしながら説明し、時には助手みたいなこともやってもらっているようであった。
不吉な予感
ある日、Xがワイに「これで良いと思う?」と、1枚の紙を見せてきた。それは弊社で使用する原料に関するもので、Xはパソコンが扱えないので完全手書きにはなるのだが、いわゆる「フローチャート」であった。弊社では多種多様な原料を使用するため、分かりやすいように書いたのだという。あのXがここまでやるというのは、相当なことである。
めちゃくちゃ後藤さんに期待しているのが伝わってくるし、早く彼に会社になじんでほしいという想いも伝わってくるぜ!成形素人のワイから見ても何となく理解できるし、ずっとこの業界に身を置いていた後藤さんなら、すぐに理解を示すだろう。そう思ったワイは「これ、分かりやすくて良いと思うよ」と言っておいた。
そんなある日のお昼時、前は色々と後藤さんに話かけていたパートタイマーは、いつの間にか後藤さんがいないかのような感じで女性陣だけで雑談をしていた。後でそっとそのことについてパートに聞いてみると「だってあの人、こちらが話しかけても反応薄いし、会話が成り立たないんだもん」とな。そこでワイは考えた。ワイでさえあのパートの中にいるのきついのに、そりゃ年下の入社したての男性は居づらいよな、と。そこでXに確認を取ったうえで、後藤さんに提案をしてみた。「もしお昼休憩室に居づらいなら、事務所で工場長と一緒に食べることも可能ですよ」と。これを境に彼は翌日から事務所でお昼を食べ始めることになる。
事務所での後藤さんの様子は非常に静かで、パートの証言通りこちらから話しかけても反応が薄い。まあ違う机で食べてるから物理的距離もあるしXとは男同士だし、そんなもんなのかなぁ、と思っていた。そんなある日、ワイが休憩室でお昼を食べ終わってから事務所に行くと、後藤さんがいなかった。そういえば彼の車がない(事務所から駐車場が見える)。Xに聞くと「5分ほどで持ってきた弁当を口に詰め込んで、すぐに車でどっか行った」と・・・。後藤さんの家は弊社から車では30分はかかるので、家に帰ったのではないのだけは確かだ。
まぁ、弊社は色々緩いクソ零細なので、お昼は自由に出ても良い。けど、なんか用事あるのなら事前に一言報告してくれりゃ良いのに(そうしないと出先で何かあった場合対処しにくいから)、と思っていたのだが・・・その日以降、彼は5分で食事済ませる→車でどっか行く→休憩時間終了ギリギリに帰ってくるを毎日繰り返すようになり、そのうちにお昼ご飯も食べずに直ぐに車で外出するようになってしまったのである。
・・・ってちょっとまてい!!初っ端からなにこれ?こちらは何とかなじめるようにと色々話しかけてるのに、どの会話も100%「ええ」「まあ」の返事されて終わってるわけで。別に会社だから休み時間のコミュニケーションは無理強いはせんが、これでは仕事にも支障出るのでは?そんな不安が頭をよぎり始めた。
しかも誰にも何も告げずに、入ったばかりの会社でなじむ努力もせずにそれをやり始める・・・普通はやらないと思う。しかも相手は何回も書くが年齢50代だ。いわゆる会社における一般常識といわれるものは心得てないといけないはずだが、どうにもそれに当てはまらない感じがしてきた。仕事さえちゃんとしてもらえれば問題ないわけだが、今の状態では仕事上における最低限のコミュニケーションも取るのが難しいのでは・・・と感じていた。
このお昼休みの出来事で感じ取ったわずかな不安は、今後かなり大きな形で渦となって弊社を、そしてワイを巻き込んでいくことになるのである・・・。

