L氏登場 

仕事シーズン2・上

一番最初の採用は ファイナル(前回の記事)

 Qが会社を辞めた事は前回の記事で書いた。弊社(ウチの会社は、これから『弊社』表記にします)は人の定着率が極めて悪いのが課題の一つだったが、その問題の根本的な原因に会社の財政状況が悪いことが挙げられると思う。

ある意味ちょろい

 前社長は表向きは鬱を理由にしてはいるが、財政状況が最悪の弊社を早く手放したい故に経営から手を引いたのである。そんな弊社の財政状況は以下の通り。

1.毎月、ギリギリの黒字か赤字かのどっちか。
2.製品の原材料費は、来月のツケで支払う事多々あり。
3.この時点で、借入金はなし(前社長時代に返済は終わってる)。
4.新社長になった時点で、社長は弊社に300万円ほど資金投入してる

 とまぁ、こんな感じなので社長は頭を悩ませている様子だった(解決できるほど優秀な脳みそを社長が持ち合わせていない事が分かるのはそう遠い話ではない)。特に弊社は繁忙期と閑散期の差が激しい。繁忙期は目が回るほど忙しく、閑散期は在庫の製品も処理し終わり、パートタイマーが交代制で休むことをずっと前から繰り返してきた(閑散期は2カ月間くらい)。ただ、弊社のパートタイマーはあまりやる気がないので閑散期に休んで給料が減ってもあまり気にしていない様子であり、また息抜きという側面もあった。
 社長はこの閑散期に穴埋めをする仕事を何とか探して、売り上げアップに繋げたいと考えたようだ。一言言っておくが、こちらの閑散期の時はぶっちゃけ取引先も暇である。つまり、業界全体が同じようなリズムで繁忙期と閑散期を繰り返していると言えるが、取引先は自分たちが暇になったら協力工場に移管していた金型を引き上げて自社で製造すれば良いだけの話なので、暇だとしてもそこまで影響はない。一番影響があるのは、常に金型引き上げの危機に晒されている弊社を含む協力工場である。つまり閑散期の穴埋めをしようと思うならば、同じ業界から仕事を引っ張ってきてもあまり意味がないと言える。
 ある日、社長が弊社にとある人物を連れて来た。スーツをビシッと着こなしたその男性は、30代後半から40代前半位に見える。そしてワイの所にもその男性を連れてきた。話を聞いてみるとその男性の名前はLさんと言い、社長と前から付き合いのあるS社の営業マンであった。S社と弊社は今まで付き合いというものは全くなかった。このS社というのが今までの取引先とは少々毛色が違っており、樹脂製品製造はもちろん、成形機の販売・買い取り、取引先あっせんなど、樹脂関係なら何でも扱っている会社であった。
 当時は社長がまるで自慢するかのように弊社を色んな人間に見せていた。実は弊社は財政状況はともかくとして、社長の会社のY社よりも見た目が立派だった(Y社については、また別記事で書きたいと思う)。今回L氏を連れて来たのも弊社を単に見せたかっただけかと思っていたが、その予想は大きく外れてしまう。その後2人は事務所にて何か喋った後に、帰って行った。
 ある日、社長が弊社に来ていきなりこう言った。

「新しい会社から仕事もらう事になったから」

・・・もらう事になったじゃねぇよ、こっちの都合は一切考えずに何で勝手に仕事取って来てるのか。しかも今は繁忙期で人も足りない。誰がその増えた分の仕事やるんだよ馬鹿かお前は。そしてワイと工場長Xは事務所に呼び出され、詳しい話を聞かされた。その内容は

1.S社(L氏)を通して、今まで一切取引経験のないF社から仕事をもらう。
2.なので、いずれはF社の人間が複数人で弊社に視察に訪れる。
3.F社用に新しい成形機を導入する。
4.F社の仕事が増えるので、新しいパートを採用する

というもの。・・・突っ込みどころがありすぎてワイ固まる。しかも話はもう進んでおり、現場(ワイら)の意見なんぞ1つも聞かずに2人だけで勝手に決めて事後報告とは・・・。まず、そのF社というのは弊社から車で1時間と結構な距離にある会社だ。従来の取引先のK社とは同じメーカーを扱っており、ある意味ではK社とライバルとも言える。そしてそのF社のお偉いさんが視察に来るとな?誰が対応すんの?ワイ単なる平社員やで?(やる人ワイとXしかいない)
 そして聞き捨てならないのが3番だ。成形機というものは非常に高価で、外車くらいは余裕で買える。しかも今回導入するものは弊社で扱ったことのない最新式の電気式とな。その金どこから出るの??
 そして4番目。いや、前から人足りない言うてるでしょうが。繁忙期だろうとパートは決まった時間で帰ってしまうので、その分の負担は全部ワイが被っとるんやぞ。しかも新しい仕事決まってから募集って遅すぎやぞ、即戦力になる人間なんてそうそう居ないんだから仕込み時間考えろ。
 つまりこれらの話を要約すると、L氏に何か仕事がないかを聞いた際、F社の仕事を持ってくるのと引き換えに高価な成形機を売りつけられた、というのが真相だと思われる。社長はF社の単価が良いからと大喜びでこの話を承諾してしまったのだ(単価が良という事は、当然ながらその分経費や手間がかかることをこいつは理解していない様子)。L氏は「新しい機械を買ってやる気見せましょう。このままF社から新しい仕事をたくさんもらえれば、2年でペイ出来ますよ」と売り込んだようだ。
 確かにこの話は間違いではないが、保証があるわけではない。あくまでも「仮定」の話であって、途中で何かトラブルがあったりなどという事は当然ながら一切考慮されてない。大手ですら設備投資を渋る中、大金をはたいて零細企業が新しい成形機を購入するというのは非常にマズいのではないか・・・ワイはそう思った。 
 L氏は、営業マンとしてはとても優秀である。もちろん社長とも仲良くしているが、それはあくまでも今回のようなビジネスチャンスを狙っての事。本当に弊社の事を考えているのなら、このご時世に高価な成形機を売り込むようなことはしないだろう。彼はあくまでもビジネスなのだ。だが、社長は馬鹿なのでそれを優しさや友情と勘違いしている節があるようで、営業マンにとってはカモにしやすい人間なのだと思う。

 このL氏が持ってきたF社との仕事話が、この後の自分の人生に大きく変化をもたらすきっかけであることに、この時のワイはまだ気が付いてはいなかったのだ・・・。

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